古事記の神話

古事記の神話

『古事記』の成り立ち

kojiki

『古事記(こじき)』が完成したのが712年(和銅5)。

太安万侶(おおのやすまろ)の序文(じょふん)には、
天武天皇(てんむてんのう)が、
舎人(とねり)の稗田阿礼(ひえだのあれ)に命じて
誦み習わせた帝紀(ていき)と旧辞(きゅうじ)を、
天武天皇の没後に、元明天皇(げんめいてんのう)の命令で、
太安万侶が撰録(せんろく)し、
712年に進上した、と記されています。

帝紀とは、歴代の天皇の系譜。
旧辞とは、古い時代に、
各地の氏族に口誦で伝えられた様々な伝承のこと。

その系譜や伝承が、
一つの大きな物語として体系化されたのが、
天武天皇の即位後の7世紀後半ごろ。

その体系化された物語が、
日本の「歴史」として、文字に記録され
元明天皇に進上されたのが712年になります。

 


古事記と日本書紀

『日本書紀』は720年(養老4)に完成した歴史書です。
『古事記』の成立から8年後のことでした。

天武天皇(てんむてんのう)が、
治世晩年の天武681年(天武10)に
「帝紀(ていき)」および「上古諸事」の編纂を
川島皇子(かわしまのみこ)や
忍壁皇子(おさかべのみこ)らに命令しました。

およそ40年後の720年に
舎人親王(とねりしんのう)が
元正天皇(げんしょうてんのう)に、
その完成を奏上(そうじょう)しました。

『日本書紀』は、30巻と系図1巻からなり、
「天地開闢」から持統天皇(じとうてんのう)までを
扱っています。

『古事記』と『日本書紀』に描かれる神話は、
大きな話の流れが同じであることから、
「記紀神話」とも呼ばれていますが、
細部を比較すると、両者には大きく異なる部分があります。

これは『古事記』と『日本書紀』では
編纂する方針が異なっているためで、
『古事記』は、天皇の国土の支配や皇位継承の
正当性を国内に示す目的で、
『日本書紀』は、唐(とう)や新羅(しらぎ)などの
東アジアに通用する正史を編纂する目的で
編纂されたとする説が一般的です。

両者を比較することで、
より具体的な古代国家を知ることができる、
古代史研究の重要な基本的史料となります。

 


出雲国風土記

『出雲国風土記(いずものくにふどき)』は、
733年(天平5)に完成した、
ほぼ完本の形で今日に伝わる唯一の「風土記」です。

「風土記」は713年(和銅6)に、風土記の編纂命令が
諸国に下されました。

その命令は、
(一)諸国の郡郷の名に「好字」をつける
(二)郡内の産物の品目
(三)土地の肥沃の状態
(四)山川原野の名の由来
(五)古老(ころう)が伝承している旧聞異事
以上を史籍に記載して、提出しなさい。

この「諸国の郡郷の名に好字をつける」とは、
郡郷の名を漢字二字の嘉字(かじ)に改める命令です。

例えば、『古事記』に「肥(ひ)川」とある川は、
『日本書紀』では「簸(ひ)川」と表記されていますが、
『出雲国風土記』では「斐伊(ひい)川」とあります。

その川の流域である「斐伊(ひい)郷」は、
『出雲国風土記』では、726年(神亀3)に
郷名を「樋(ひ)」から「斐伊」に改めた、とあり
漢字一字から二字に改めたことがわかります。

こうした「風土記」の多くは、
経年のうちに散逸し、現存する風土記は、
出雲(いずも)・常陸(ひたち)・播磨(はりま)・
豊後(ぶんご)・肥前(ひぜん)の「五風土記」です。

また、『釈日本紀(しゃくにほんぎ)* 』など
後世の書物に引用される形式で残る風土記は
「風土記逸文」と言われています。

こうした「風土記」のうち
『出雲国風土記』のみが「ほぼ完本」で、
編纂者、完成年月日がわかる「風土記」となります。

「ほぼ完本」というのは、
平安時代に編纂された
『和名類聚抄(わみょうるいじゅうしょう)* 』に
「多久郷(たくごう)」や「千酌郷(ちくみ)」がみえ、
『出雲国風土記』にない神社名が
『延喜式(えんぎしき)* 』にみえること、
また『出雲国風土記』島根郷(しまねごう)条に
「朝酌下社(あさくみのしもしゃ)があるのに、
「朝酌上社」がみえないこと、
などから一部欠落がある、と考えられているためです。

しかしながら、末尾には「五風土記」のなかで唯一、
編纂者や完成年月日が記されており、
出雲国造(いずものこくぞう)で
意宇郡(おうぐん)の郡司(ぐんじ)であった
出雲臣広島(いずものおみひろしま)など
在地の郡司が編纂に大きく関わっていていることが
わかります。

中央から派遣された国司(こくし)ではなく、
在地の有力者が編纂に関わったことで、
より充実した内容の「風土記」となっており、
日本古代の地方の行政や交通を知る上で重要な史料と
なっています。

なかでも、『出雲国風土記』の地名の由来のなかに
出雲に伝えられていた神話が記されているのが特徴で、
スサノオやオオクニヌシの神話のように、
『古事記』や『日本書紀』とは異なる内容の神話があったり、
ヤツカミズオミヅヌの「国引き」のように
『古事記』や『日本書紀』には記されていない
神話があります。

こうした神話は、一般に「出雲神話」と呼ばれていますが、
『古事記』『日本書紀』の物語だけでなく
『出雲国風土記』の物語をも比較することで、
古代日本の各地に伝えられた神話の多様性や奥深さを
学ぶことができます。